ティグリスは話を続けた。

 「彼らが現れてからこのことを、なるべく詳しく話してほしい。言い方が悪いかもしれないが、娘一人を排除するためにここまで大掛かりなことをする理由が分からない。何か、大きなものが動いているかもしれないからね。」

 「アリシダ…様が私を連れてこさせたのではないのですか。」 

「彼にはプロドシアとシノモシア密会の密書が届けられていただけで、実際君を有罪にしようとした人物は分からないんだ。」

 釈然としないものを感じながら、イーリスはぽつぽつと今までのことを話始めた。 
 

 「そうか、母君が……。思い出すのも辛いだろうに、ありがとう。」

 王子は聞き上手だった。

 ところどころイーリスが詰まるようなことがあっても急かすことなく、ゆっくり話を引き出してくれた。

 話し終えるとまず掛けられた慰めの言葉にこそばゆい思いだった。

 眉ひとつ動かさずに王子の後ろに立つフィストスには辟易したが、母の断末魔を思い出しても不思議と涙は出てこなかった。