獅子王とあやめ姫

 年齢は三十半ばくらいだろうか。少し癖のあるとび色の髪に髭を蓄え、橙色の瞳が鋭く光っている。

 いや、そんなことよりも、自分を救ってくれたこの青年が第一王子だということが衝撃的だった。

 身分の高い人なんだろうとは思っていたがさすがに王子だとは思いもしなかったのだ。

 「も、申し訳ありません。」
 
 「いや、こちらこそ申し遅れてすまない。僕はパルテノ国第一王子のティグリス。……フィストス、僕はそういうことは気にしなくて良いと前から言ってるだろ。女心を分かっていないから女房にも逃げられてしまうのだぞ。」

 茶目っ気たっぷりに年上の部下をたしなめてから、王子はイーリスの方へ向き直った。

 「アリシダから聞いた。数々の殴打、鞭打ち、石抱き……本当によく耐えてくれた。おまけに僕が止めなければこのフィストスに爪を剥がされていた。」

 「本当に私は何もしておりませんので。殿下、誠にありがとうございます。」

 きらきら光る琥珀のような目で見つめられ、イーリスは余計に今の自分の顔が惨めに感じられて目を伏せた。

 そんな彼女をフィストスは冷たい目で観察していたが、知る由もない。
 
 その時また扉を叩く音がして、先程の少女が顔を覗かせた。 

「お召し物の洗濯が終わりました。」
  
 「あ、ありがとうございます。」

 イーリスが受けとると、おずおずと少女が尋ねた。

 「あの、かなり破れてしまっています、処分して新しいものに取り替えることも出来ますが。」

 「いえ、大丈夫です。縫い直して使いますから。…着なれたものの方が使いやすくて助かりますし。」
 
 「あと、これが落とし(ポケット)に入っていましたが…。」