仕組んだと言っても彼はラコウンにイーリスの存在をそれとなく教えただけで、あとは自身は手を汚さずともラコウンが己の保身のために血眼で彼女を始末する計画を立てて実行してくれた。

(ラコウンは本当によく踊ってくれる。扱いやすい駒だ。)

 あの娘の中に、この国に対する憎悪の種を蒔き、じっくり時間をかけて育て上げる。

 今回の騒動はまだ地ならしに過ぎない。

 これからどんどん水や肥やしを与えて育てねばなるまいな…とフィストスは考えを巡らせた。

 これからも、自分の引いた線の上を歩いているだけとは知らずに、彼は思惑通りに事を運ぼうと邁進するのだろう。
 
 己の保身に必死な権力者は、椅子にしがみつくのに精一杯で周りが見えていない。

 自分がまだ若くて未熟な文官だった頃は、愛国心もあって頭の切れる賢臣に見えていたラコウンが、今や保身に必死なただの愚臣としか思えない。

 ましてやあの男に出会ってからは、尚更ラコウン達年長者が愚かに映るばかりだった。