気が付けば、母の血糊を付けたまま、
厨房で従業員を集めて改まった口調でそう告げる自分が立っていた。

 結局、動揺する彼らにせっつかれ詳しい事情を説明せざるを得なかったが、その間イーリスは遠くから話している自分自身を眺めているような感覚を味わっていた。

 それに、母の忌の際の言葉。

 パルテノには帰ってくるなといわれたが、最近の母の異常な神経質さと関係があるのだろうか。




 「…イーリス。」

 横にいてくれているテリに肩をつつかれ、イーリスはハッと我に返り、手に持っていた包みを握り直した。

 中には硬貨と、あのあと焼いたピタ(ケーキのようなもの)が包んである。

 棺の前に膝を付き、それらを母の口の中へ丁寧に入れた。

 これらはパルテノの昔ながらの習慣で、硬貨は地獄の河の舟守に渡すため、ピタは地獄の番犬をなだめるために亡くなった人の口の中に入れるらしい。

 すっかり冷たくなった顎を閉じながら、イーリスの目はふと母の手に留まった。