神官の弔いの言葉がねずみ色の空に吸い込まれて消えていく。

 アイアスやカトテナをはじめとする従業員達、わざわざ駆け付けてくれた馴染みの客、野菜や果物を卸してくれていたテリとその両親、それに許嫁のプローティス達と共に、イーリスは母との最後の時を過ごしていた。
 
 棺の中で静かな表情で眠っている母に目を向けながら、イーリスはいつのまにか回想に浸っていた。

 

 あのあと母がこと切れると、糸が切れるようにイーリスの涙もぴたりと止まってしまった。

 アイアスがいつのまにか呼んできた城の治安維持兵がやって来る。

__しばらく遺体はこちらで預からせてもらう。ここ最近の辻斬りの斬り方の特徴に沿っているか確かめるだけだ、解剖なんて言って切り刻んだりしないから安心しろ。

 古びた鎧を着た兵士の言葉が、まるで異国の歌のように頭の中で繰り返される。

 担架で運ばれて行く母を見送ってから家に戻るまでの道のりをイーリスはまったく覚えていない。

 「あまりに突然ですが、店主のフレジアが亡くなりました。今日と明日は葬儀のため、食堂の方は休業ということにします。今は皆さん口外せずにお仕事に精を出してください。」