「知ってるよ!でもそれってとっくの昔のことじゃないの?なあに、いきなり物騒な。」 

 「そうそう、今じゃ隣もこの国も同じようなもんじゃない。」

 奥の厨房で生地の仕込みをしていたイーリスの母親が暖簾をくぐって話に入ってきた。

 隣の国とは西の山脈の向こうにある、ラトキアという名の王国で、黒い髪に翡翠のような緑の目をしている人が多く住んでいた。

 激しい気性の国民性で、隣国であるパルテノに攻め入ることはなかったものの、数十年前までは盗人が手首を切られるだけではなく、人殺しは市中引き回し、放火は火あぶりなど残酷な刑罰を定めた法が施行されていた。

 母の言葉を聞いたファーンさんは、さっきと同じように手を振る。 

「違う違う!ほんとに出たのさ、盗人の手を切り落としやがった奴が。」