「はい、お待ちどうさま!」

 朝の慌ただしい活気を感じながら、イーリスは客の前に朝食が盛られた皿を置いた。

 海に張り出した半島に位置する小さな国、パルテノ国の市場でイーリスは、母親の営むこぢんまりした宿屋を手伝っていた。

 今年16才になる、栗色の髪に橙系の眼わ持つ、典型的なパルテノ人の少女である。

「イーリス、今日も精が出るなあ!偉いなあ、朝早くから母さんの手伝いなんて。」

 常連の薬商のおじさんは久々に会えた孫に話しかけるようにイーリスに笑いかけた。

「楽しいわよ、おじさんにも会えるしね!おじさんが来ると秋が来たなあって感じ!」

「ははは!ちょうどキノコの買入れ時だからなあ。ここら辺のキノコは有名なんだぜ?海の向こうじゃびっくりするくらいの値段で売れっからなぁ。それはそうと、この話聞いたか?」
 
「なあに?昔の許嫁が道端で占術してたことならもう聞いたけど…。」

 苦笑しながら布巾で隣の机を拭くイーリス。
 
「隣の国では盗人は手を切られるって、知ってるよなあ?」