結婚するとなっても、当然はいじゃあそうしましょうと言ってすぐ次の日に夫婦になるわけではない。

 様々な取り決めがあるそうで、あの日から二日が経った今でもイーリスは実感が掴めず相変わらずふわふわした気持ちで日々の仕事に打ち込んでいた。 

 決まったのが酒場だったせいか噂はあっという間に広がり、イーリスだけでなく他の従業員、幼いアイアスまで買い出しに行けばプローティスとのことを尋ねられたらしい。

 もちろんテリには次の日の朝真っ先に伝えに行った。

 イーリスが言い終わるや否や、テリはいきなり涙を流しはじめた。

 予想以上の反応に驚いたがその日の夕方、彼女はお祝いに果物の詰め合わせと何故か靴を持ってきてくれた。

 仕込みを抜け出して裏口の石畳に座り込む二人。

 「これはね、ラトキアの習慣なの。結婚だとかそういう人生のおっきな行事の時は、上手く世渡り出来るように靴を渡すんだってさ。」

 キレイに鞣された革の靴で、踵の部分には蝶々結びされた革紐の飾りが付いている。

 嬉しそうに靴を眺めるイーリスを見て、しんみりとテリが言った。

 「ねえ…結婚したらさ、イーリスはどこに行くの?やっぱりクレータに行っちゃうの?」

 「多分。向こうに本店があるし、そうなると思う。」

 「イーリス…!」
 「テリ…!」