獅子王とあやめ姫

プローティスが示した反応は予想と違うものだった。

　酒を大量に運んでいるし、むしろ宿屋や酒屋が妥当な商売だと思うが。

　「そうですけど、それがどうかし＿＿」
　「イーリスー！」

　向かいから走ってくる小さな影。　

　アイアスだった。

　「おかみさんカンカンだよ！どうして一人で出て行ったのさって！」

　プローティスの顔をいぶかしそうに見つめながら、アイアスは心配そうに言った。

　「私が行かなきゃ仕方なかったんだよ、ごめんね。母さん怒ってたんだ…急いで帰らなきゃ。」

　「ほんとだよ…。」

　アイアスは大人ぶって首を振る。

　そして後ろへ回って荷車を力一杯押しはじめた。

　「しっかりしてるね、あの子。」

　アイアスを姉の面倒をいっちょまえに見る弟のようだといじらしく思ったのか、本人には聞こえないようにプローティスが耳打ちする。

　確かに最近のアイアスからは、以前の気性の激しいかっぱらい小僧の面影は消え、働き者の少年になっていた。

　うん、まあ…と相槌を打ちながら、何故かイーリスはまた鼓動が早くなるのを感じていた。