「ところでお嬢ちゃん、これはお嬢ちゃんが作ってくれたのかい?前のもそうだったが、とっても美味いよ。」

 笑ってイーリスとおじさんのやりとりを見ているだけだったもう一人の客が唐突に言った。

 こちらのお方も同じクレータ人。

 クレータの本国の方で勢力を伸ばしている家具屋で、パルテノ国でも商いをしようと目論んでいるとイーリスは直接聞いていた。

 少し得意になったのが分かってしまったが嬉しそうにイーリスは答えた。 

 「ありがとうございます!何年も手解きを受けて、今日やっとお出しできるようになったから嬉しいです。」 

 「俺にも息子がいたらなあ、イーリスが嫁に来てくれるんだったら大歓迎だぜ。ウチのの飯は不味くてな、晩酌の肴もロクに作れねぇんだぜ?」

 「ひっどい、『お義父さん』!『お義母さん』も頑張ってらっしゃるのよ〜?」

 三文芝居を演じ終え、がはははと笑い合う二人。

 それを微笑ましく見ながら、男が言った。

 「ところでお嬢ちゃん、いい人はいるのかい?」

 おじさんは酒が入るとこういうことを訊きたくなるのか、こんな質問は日常茶飯事である。

 「いいえ、全然。こんな芋娘ですからねぇ。」

 「そうか、それならいいんだ。」

 「あら、恋人のための贈り物でも宣伝するつもりでしたか?」

 軽口を言ったイーリスだったが、男の反応は思っていたものと違っていた。

 「いや、次男坊がそろそろ身を固めないといけない時期でな。それで前からお嬢ちゃんの働きっぷりと人柄を見てたら嫁に来て欲しくなっちまってな。どうだ、嫁に来ないか?おかみさんは、イーリスの気持ち次第だって言ってる。」