獅子王とあやめ姫

 あの兄が大切に客間に匿ったと聞き、いつも通りイビってやろうとあの部屋の扉を開けた。

 理不尽に傷つけられ、心を閉ざしかけていた彼女がおどおどしてまともに目を見てこなかったのにイラついたのを覚えている。

 いつも通りやろうかな。平民って、ちゃんと話が通じるのかしら。

 そんな風に腹の中で思いながら一緒に時間を過ごしていたが、笑い合っているとはっと我に返る瞬間もあった。

 ついつい心の底から笑ってしまっているかもしれない。

 怪我がよくなるとと共に笑顔が増えてきたイーリスを眩しく思うこともあった。 

 (今は友達ごっこ。あとで思いっきり裏切ってやるわ。)

 そう言い聞かせるように心の中で呟いたが、どっち付かずの気持ちは消えなかった。

 仲良くしていたいのか追い出したいのか、彼女の心の中でヤジロベエがおぼつかない様子でゆらゆら揺れていた。

 いや、正確には右へ大きく振れるようにぐらついていた。

 ここ最近の兄のイーリスの構いっぷりは異常だった。