獅子王とあやめ姫

 以前は菓子、本、服や靴……確執のはびこる城内のピリピリした空気から目を背けるように、それらに没頭する日々だった。

 刺繍はどうも苦手だったが。

 小説の中に出てきた「友達」に彼女は憧れた。

 自分が惹かれた素敵なものを、誰かと分かち合いたかった。

 くだらない話で盛り上がり、時には喧嘩して辛いことがあれば慰め合う、そんな仲の女の子が欲しかった。

 だがそんな子はいなかった。

 城にいる同じ年頃の娘と言えば使用人ばかりで、話しかけても腫れ物に触るように気を使われただけだった。

 たまに身分の高い来賓があったとしてもあの大切な兄の婚約者候補である。
 
 自分がとっても、いや、ものすごく恵まれているのは分かっている。

 でもどんな人間にも不満はあるものだ。

 ほとんど華やかさが一番の世界に浸りすぎて空虚感さえ覚え始めたとき、彼女がやって来た。