獅子王とあやめ姫

 そこに立っていたのはフィストスだった。

 顎ひげを撫で付けながら続ける左大臣。

 「あの男のことです。ただの醜聞好き根性が騒いでのことなのか、こちらにどれ程の隙があるかどうかを確認しに来たのか。」

 「だが仮に暗殺者がこちらの警戒がどれ程のものか見にこようとしたとして、誰に頼む?メイドはパピアのみ。彼女は人を欺けるような娘ではない。窓から覗くとしてもそんな場所はない。」

 「…だから護衛を動かせる自ら出向く、ということですか。」

 王子の反論に、顎ひげをくるりと指に巻き付けながら彼の言いたいことをまとめる左大臣。

 完全にイーリスは置いてきぼりだったが議論が一つの方向へ向かっているという、何となくの会話の空気は感じることが出来た。

 「ああ。彼の性格も隠れ蓑になるだろう。何者かが彼に糸を付けて放していたとしても、それを辿れば良い。」

 証拠が出揃ったかのようなティグリスの一言に、珍しく満足そうにフィストスは手を打った。

 「では、次の行動を起こすといたしましょう。」


    *    *    *


 商人に促され、磨かれた石の箱を開ける。

 中に入っていたのは菓子だった。