獅子王とあやめ姫

 「そう、ですね、まだ…。でも、とっても居心地良いです。」

 そう付け足すと、王子は安心したように微笑んだ。

 「それは良かった。」

 その微笑みを見てなんとなく、心の奥がうずいた。

 嘘は吐いていないからきっと罪悪感ではない。

 ではなんだろう。

(相乗効果ってやつかな。あのオヤジはなかなかの代物だったから。酔った客によくいるけど。)

 「……。」

 いつもは進んで話してくれるはずなのに、なぜか王子は何も言わなかった。

 わたしから話せるようにしてくれているのかな。

 「右大臣さまとは、」

 我に返ったようにティグリスがこちらを見た。

 あら。考え事してたのかな。

 うん?と促されイーリスは続けた。

 「相容れない仲だと、お聞きしました……。なのにわざわざ__。」

 イーリスの命を狙うなら、まず暗殺の隙はあるかどうか確かめに来るはずだ。

 ティグリスとフィストスが心から信用している部下と使用人を見張りと世話役につかせ、イゼルベラを始めとした興味本意で覗きにくる人間は閉め出した。

 そこまでしても王子たちの目を掻い潜ってやってくる人間は糸がついている可能性があるという。

 軽く警備の罠を張り、そこに初めてかかったのが右大臣だったということだ。

 「ああ。噂話が気になって来たようなことを言っていたが」

 「そう言い切るにはまだ早いかと存じます。」

 入り口の方から声がして、ハッと二人はそちらを見た。