獅子王とあやめ姫

 「名乗ったかもしれないが彼は右大臣のラコウンだ。…考え方が違っていたり品はないように思えるが、根の部分は悪い人間ではない。無礼を許してやってくれ。」

 「はい。あんなの慣れっこですから、大丈夫です。」

 まっすぐに見つめられるのが気恥ずかしくて、さりげなく目線をそらしながら言った。

 「慣れっこって言っても、ねえ!ティグリスさま、あとでご注意なさって下さいっ!」

 告げ口するような甘えた口調の召し使いに苦笑する王子。

 きっと侍女達はフィストスがついていないといつもこんな感じなのだろう。

 「ああ。肝に命ずるよう、こってり叱っておこう。」

 ところで、とティグリスは皿の乗った台車を手で示した。

 「この器、早く洗わなければ汚れが落ちにくくなっていくのではないか?」

 「あっ、そうでございますね!ではティグリス殿下、イーリスさま、失礼します!」

 いそいそとパピアが出ていき二人だけになると、より一層部屋が静かになった気がした。

 「気立ての良い娘だろう?賑やかすぎることもあるが。」

 彼女が出ていったあとの扉に目をやりながら切り出した。

 「確かに。でもわたし、そういう人の方が安心出来ます。町では賑やかすぎる所にいましたから。」

 遠い目で窓の遥か下で遠くまで広がる町を見つめる。

 「それは初耳だな。そなた自身からはそんな風には感じ取られなかった。」

 「慣れたところにいれば、わたしもやかましい方です。」

 「…ここには、まだ慣れないか?」

 あっ、しまった。