獅子王とあやめ姫

 「これはこれは王子殿!ご機嫌麗しゅう。」

 うやうやしくというかわざとらしく頭を下げた右大臣だったが焦りを隠そうとしている反動でか、汗がタラタラと流れている。

 「この娘に…何の用だ。」

 「いえ、あの…ただの視察でございますよ。」

 「というと?」

 この右大臣は少し追い詰められると攻撃的になる性格のようだ。

 何を思ってか彼のうやうやしい態度は身を潜めた。

 「正直に言ってしまうと、単なる好奇心ですな。書官に刀を預けねばお目にかかれないティグリス様の“お花”は、どんな花びらなのか、と。」

 ははは、と豪快に笑うラコウンだったが、ティグリスの形相を見てハッと顔を固まらせた。

 「…もうすぐ評議が始まるのではないか。疾く向かえ。」

 ラコウンがそそくさと出ていくと、しーんと静かさが目立った。

 ティグリスはイーリスに向き合う。