獅子王とあやめ姫

「大分良くなられたわ。お顔の腫れもほとんどなくなってきたしね。」

 冷たい水を一刻も早く拭おうと努めながらそう答える。
 
 今まで女のおの字も感じられなかった第一王子が、一人の冴えない町娘を理不尽な拷問から救い出し、客間に泊めて丁重に扱っているという噂は一瞬で城中に広まった。

 その町娘の世話を一人任されているパピアは、事あるごとに仲間から何か新しい噂の種がないか聞き出されるのだった。

 彼女自身も噂話は嫌いではなかったし、何よりあのティグリス様から直々に世話役を任せられたとあって、パピアは満更でもない様子で聞かれることは喜んで話した。

 特に口止めもされてないしね、とこっそり心の中で舌を出しているのも嘘ではなかった。

 「でも不思議ねぇ。本当にどこにでもいそうな子なんでしょう?」

 何度も聞かされた言葉に思わず苦笑した。

 「そう言っちゃ悪いけどね。正直この前いらっしゃったラトキアの姫の方が何百倍も華はあったわ。」
 
 「ほんとに何もないのかしら。」