「申し訳ありません、ティノティは置いていなくて。」

 「君その様子じゃあティノティが何かも知らないんだねえ。」

 図星だったのが思わず顔に出てしまった。

 「未熟者で申し訳ないです。すぐ主人に尋ねて持ってきますから。」

 なんとかして取り繕うとするイーリスの努力を男はあっけなく流す。

 そして骨と皮だけの大きな手をひらひらと振って事も無げに口を開いた。

 「いいよそんなの。君のお母さんは忙しいんだろお?ティノティってのは強い酒のことだよお。ちょっとマンダリーニの香りがするやつね。思いがけない嫌なことがあったらちょっとひっかけるんだよねえ。

 …ああ、無いんだねえ。顔見たら分かるよ。期待した俺が悪いんだよなあ、こんな宿屋じゃあ置いてないかあ。女主人はともかく一人娘がこうじゃあ、ねえ?」

 次々紡がれる手厳しい言葉にイーリスは言葉も出ない。

 そんなイーリスを半分笑いながら男は投げるように机に食事代を置いた。