「もう少ししとやかになさってください。たった一人の王女がお転婆娘では話になりませんわ。」

 王女を中へと促しながら小言を言う。

 「だって……そうね、ちゃんとするわ、これからは。」

 口答えしかけたイゼルベラだったが、この教育係に逆らうとお説教が倍に延びることを思いだし、素直になる振りをした。

 それでもまだ何か言いたげなトリーフィアの顔を見て、慌ててイゼルベラは話題を変えた。

 このトリーフィアといいフィストスといい、この国の王族の教育係は頑固者なのである。

 「そういえばお兄様、出発なさる前は何をしてらしたのかしら。お部屋にも図書館にも剣術の鍛練場にも、どこにもいらっしゃらなかったわ。トリーフィア、あなた知らない?」

 王女とその教育係の後ろについて歩いていた侍女たちは、また始まった、と顔を見合わせる。

 ティグリスとイゼルベラはとても仲の良い兄弟だが、時にイゼルベラの兄への愛情が過剰に感じられるときがあるのを、イゼルベラ本人以外は気づいていた。