冷やかすでもからかうでもない、いつもの問答の時のような口調のフィストス。

 「放っておけないだろう。母上が目の前で殺された上、許嫁の裏切りで無実の罪を着せられ拷問……親切にしてやる以外にどうしろと言うんだ。

 それに、民はどう僕達王族を見ているのか知る良い機会にもなるだろう。」

 考えながら話していたティグリスは、フィストスの目に浮かんだ何かを仕留めたような光に気が付かなかった。

 「親身になられるのは結構ですが、殿下。妙な噂を立てられぬよう。」

 「そんな噂するような低俗な連中は相手にしない。第一、王族と平民が結ばれるようなことなんてあってたまるか。」
 
 そう言い放つと、ティグリスは話題をこれから向かうクレータ国の王政に変えた。

 思いやりがあって聡明だが、まだ若くて青い君主を待ち受けている未来を思い、フィストスは胸に固い石がつかえたような重苦しい気持ちを、知らず知らずの内に押し殺していた。


     *   *   *


 イゼルベラは、明るい城下町へ下っていく兄の馬車を長いこと手を振って見送っていた。