城中では、どこで誰が聞き耳を立てているか分かったものではない。
 
 その点この馬車は盗聴される心配もなく、例に倣わずティグリスがフィストスと同乗した理由はそこにあった。

 「あの娘……イーリスのことだが。裏で糸を引いているのは誰だと思う?」

 「彼女が何を握っているのか、それがはっきりしないことには断言しかねますな。ですがロファーロを付けておきました。何か掴め次第便りを寄越すでしょう。」
 
 ティグリスは忠臣の言葉に眉を曇らせた。
 
 「ああ…。ままならぬものだな。」

 そんな王子の反応に、フィストスは釣り針に魚がかかりかかっているような手ごたえを感じる。 

 「殿下。どうしてそれほどまであの娘に肩入れなさるのです?」