獅子王とあやめ姫

 __ここの人たち、皆冷たいなぁ……。

 まるで黒くて分厚い石の壁を隔てて話しているようだ。

 分かりました、よろしくお願いします、と返しながら、イーリスは虚ろな寂しさが広がっていくのをぼんやりと感じていた。


    *    *    * 


 馬のいななきが聞こえ、馬車が進み始める。

 ふかふかと柔らかい深紅の座席に深く腰を下ろし、ティグリスは息をついた。

 「ふぅ。港まで数刻、この狭い馬車の中でお前と二人きりか。」 

 よく整えられた道から伝わる振動が心地よい。

 だが車輪が石を轢いたのか、ゴトンと少し大きな衝撃が走る。

 「まぁ、これも悪くないな。」

 いたずらっぽく笑うティグリスに、フィストスは髭面を歪めた苦い笑いで返した。

 「それに密談するにはいい機会だ。」