木の器を使っていたため幸い割れはしなかったが客がまとっている旅衣が少し汚れてしまい、男は外套の頭巾からのぞく無精髭の生えた口元を露骨に歪ませた。

 慌てて頭を下げるテリ。
 
 イーリスももちろん彼女に倣う。

 「申し訳ありません!今布巾をお持ちしますから!」

  慌てるイーリスを片手で制して男は首を振った。

 「ティノティは、あるかなあ?」

 先程の嫌な顔とはうってかわって、二人の少女の慌てぶりを楽しむように唇の端を吊り上げている。

何を言われたのか瞬時に理解することが出来ずにイーリスは戸惑い、目を泳がせた。

 それに話し方が料理を注文した時のそれとは全く違い、イーリスはこの客に対して恐怖心さえ抱いた。

 (何……この人、独特の雰囲気……。)

怒らせないようにしなければ。

イーリスは謝ると共に頭を深く下げた。