その日、この国では珍しく雨が降った。

大きな雨粒が容赦なく降り注ぎ、大地、街、家々、王城まで、その国の全てを暗い色に塗りつぶしていた。

  そんな王城の一室では、数人の壮年の男達が大きな円卓を囲んで眉間にシワを寄せていた。

 「葬儀はどうなる?」

 席についている痩せた男が白くて細い顎髭を不安げに撫でつけながら言った。

 「棺が一つ増えるだけだ。あとは慣例に従えばよい。」

 そんなことは二の次だと言わんばかりに、よく肥えた男が手をひらひらと振る。

 二人を尻目に、もう一人の黒々と髭を蓄えた男がぼそりと呟いた。

 「…陛下だけではなく第一王子様まで逝去されたとなると、王位は第二王子に……」 

 その言葉に静かだった男たちはさらに押し黙った。

 窓を雨音が激しく打ち付ける音が部屋の中に響き渡る。

 先程から伝わっていた外の慌ただしい空気がより一層感じられた。

 「あの“うつけ者”に王位が渡るとは……。」

 顎髭の男が憂鬱そうに眉頭を押さえる。

 「全くだ。15才の元服の儀式はもう何年も前に済ませたというのに、振る舞いの傲慢さたるや!目も当てられん。」

 先程とは打って変わって、太った男は顎髭の彼と同意見らしい。

 「まあ。これで却って良かったのかもしれんな…第一王子は第二王子よりはるかに誠実な方だったが、王ほど聡明でなかったからな…下手に政に手を出されても困る。」

 そう言ったのは黒髭の男だ。

 彼の言葉に、太った男は初めて大きな声で笑った。

 「そうだな、誠実でも聡明でもないウツケの『陛下』は適当に泳がせておけば───」

 嘲笑とも取れるような笑い声が部屋に流れたとき、分厚い部屋の扉を、破れんばかりの勢いで蹴り開けて入ってきた者がいた。