私の思いのありったけをぶつけた作品は、2次審査を通った。

 3次審査。本当はボディに着つける服だが、私はどうしても先生のサイズで作りたかった。
 

「先生、今少しお時間よろしいですか?」

「どうぞ」

「先生のボディサイズを計りに来ました」

「……いいわよ」


 私は先生の近くに寄った。

 こんなに先生と密着したのはとても久しぶり。

 先生の香りがする。

 肩幅、肩から手首、手首まわり、首の付け根から腰。

 なるべく先生に触れないようにした。それでもドキドキが止まらない。

 先生の前に回って首回り……先生は私をじっと見た。

「山川」

 先生の息がかかる。

「……はい」

「あの服は、私の服なの?」

「……腕をあげてください。バストを計ります」

「答えなさい」

「……わかっていると思っていました。私の気持ち」

 先生の前から背中に手を回し、メジャーを引く。

 先生は急に手をおろし、私を抱きしめた。

「せ、先生……」

 先生の鼓動が早いのを感じる。私の鼓動も早くなる。

「お前といても、お前を傷つけるだけなんだ」

 小さくささやく声。久しぶりのイケメンボイス。

「いいんです。思いを返してもらいたくて作るんじゃありません。ただ、「好きな人に着せたい服」と聞いて、先生のことしか思い浮かばなかった。先生が誰を好きでも、私は構いません。私が一方的に好き。それだけで満足なんです」

 先生の私を抱きしめる腕の力が強くなった。そして、私にキスをしようとして思いとどまり、顔をそむける。 
 
「ごめん、俺は……多分お前を……」

「もう何も言わないでください……。今は3次審査のことだけ考えたいです」

「山川……」

「私も利用したんです!3次の服を作るために、オネエじゃない先生と話したかった。これで満足です。この思いだけで服が作れます!」

 涙が出そうだった。胸が詰まって言葉が出なくなる。その前にこの部屋から出ていかないと。

 先生の顔も見ず、震える手でバスト、ウエスト、ヒップのサイズ、腰から足首のサイズを計り、メジャーを巻き取った。

「ありがとうございます!失礼します!」

 おおきく頭を下げ、部屋のノブに手をかけると、先生のつぶやくような声が聞こえた。

「……ありがとう」

 もうその言葉だけで充分だった。


 私は3日仕事を休ませてもらい、作業に入った。

 先生の姿を思い出すと、胸がきゅんとなる。その思いを大事に、ミシンを走らせた。この服はきっと作ったとしても先生が袖を通すことはないだろう。

 でも、これが先生のサイズだというだけでうれしかった。

 3日間、作業に没頭した。寝る時間も惜しくなるほど楽しかった。

 細部までこだわり、丁寧に仕上げた。