『海底のお茶会』


「私、白いカラスなんです」

私の外見に驚きを隠せないでいる彼にそう言うと、彼は納得した様子で頷いた。

「そっか。……だから君は夜に仕事してるんだ」

「……っ!」

正直驚いた。まず「白いカラスって?」と、聞き返してくると思っていた。

彼の答えは私のアルビノという先天性遺伝子疾患への理解、つまり私の肌が紫外線に極めて弱いことへの理解があることを意味していて、ちょっと彼に対して興味が湧いた。

「じゃあ、この朝の日差しの中で作業するのは辛いだろ。俺がやってやるから君は陰にいるといい」

「あ、ありがとうございます。正直助かります」

彼の親切な申し出に甘えて、自転車置き場の屋根の下から彼の作業を見守った。

彼は帰宅途中でチェーンが外れてしまった私の自転車をいとも簡単に直してくれた。

「はい、おっけ」

「本当にありがとうございました」

「いいさ。俺もちょうど今日は休みだったしね」

彼と一緒に三階の自分の部屋に戻ってきて、今まで面識のなかった隣室の住人が彼であることが判明する。

「……あの、お時間があるならちょっとお茶でもご一緒しませんか?」

「……いいけど、どこか喫茶店でも行く? でも、もう陽ぃ昇っちゃってるけど?」

「ええ。確かにこの日差しの中で出かけるのは厳しいので、よかったら私の部屋で」

彼があからさまに呆れた顔をする。

「……君さ、俺が悪い人だったらどうすんの? 若い女性が見知らぬ男を部屋に上げるとか、警戒心なさすぎじゃない?」

「えーでも、あなたはいい人だから。それに、悪い人ならわざわざ注意してくれたりしないでしょ? だから私はあなたを信頼します」

ちょっと驚いた様子の彼は、ふっと微笑んで小さく頷いた。

「おっけ。じゃあ、貰い物だけどお菓子でも持って15分後ぐらいにお邪魔してもいいかな?」

「はい。お待ちしています」

急いで普段着に着替え、やかんを火にかけ、リビングを片付ける。

テーブルに出しっぱなしの書きかけの報告書、ボールペン、空のマグカップ。

やかんのお湯が沸いたちょうどその時、彼がやってきた。

「へぇ、海の底みたいだ」

群青の遮光カーテンが閉まったリビングに対する彼の解釈は、私のコーディネートイメージそのままだったのでちょっと嬉しかった。

「海の底でのお茶会なんてちょっと素敵でしょ?」


つづく