きっとあの中に入れば、二度とこの世には戻って来れないんだ。
私は叫ぼうとした。
だけど、金縛りにあっていて、何もできない。
瞬きすらできなかった。
このままでは確実に連れていかれる…!
私を絶望が包み込んだ。
ダメだ…。
私が諦めたときだった。
「近寄るな!出ていきなさい!」
玲ちゃんの声が聞こえた。
いつも大きな声を出さない玲ちゃんが、叫んだのだ。
その途端、男は壁の中に消えていった。
そして、壁は何事もなかったかのように、普通の壁に戻った。
「はあ…、危なかった…。」
「ここに来ちゃダメって言ったのに…。」
玲ちゃんもいつもの玲ちゃんに戻っていた。
「大丈夫か?!」
「香織?!」
玲ちゃんの声を聞いて、二人が出てきた。
「あれ?玲ちゃん、なんで…?」
「もう約束の時間は過ぎているよ…?」
私は慌ててケータイで時間を確認した。
もうすでに午前10時45分になっていた。
「あはは…。気づかなかった…。」
私は笑って誤魔化した。

