1度じっと見てしまえば吸い込まれそうな澄んだ大きな瞳が静かに私を捉えた。

途切れた会話。
困惑の表情の私とは裏腹に、先輩はやっぱりフワフワで爽やかな笑顔だ。
思わずじっくり見てしまって確信する。
やはり先輩も連盟総長。…綺麗な顔をしているなぁ、と。


何処かぼうっとしていた私に、爆弾を遠慮なく落としたのはその直後。
その通りですよ、と聞かなかったことにしたい声が聞こえた。


「私、貴方を何処かにしまっておきたくて…誰にも見つからないところに、閉じ込めてやりたいのです…「タチの悪い冗談はやめましょうね!」


少し演技がかった声色に仕草。
熱っぽく見える瞳は恵のよう。
いや、確実に演技だとは分かってはいるけど、なかなか赤面ものである。


否定の言葉を浴びせれば、先輩はより距離を縮めて言った。


「冗談なんかじゃありませんよ。初めて会った時から私は貴方の虜なんです。…もう我慢出来ない。」



……我慢出来ないって何?!

先輩の手がすっと私の頬を、首筋を撫でた。
パニックもパニックである。
この人、やはり普段のほわほわは嘘。
恵を超える変態なような気がするよ?!


きっと私がロボットだったら、完全にショート。
事実、私の動きもショート。




「なーんて、ね。」




ふふっと、無邪気な笑い声が目の前のショートの原因から洩れた。

ぱっと手を離して、戻る爽やか先輩。




「……女の子困らせて遊ぶ趣味があるようで!」

「それはほら、困り顔で涙を浮かべて上目遣いでじっと見つめてくるとかこの上なく欲情されません?」

「知りません!」


完っ全にいいおもちゃにして遊ばれたよね!
しかもなんかよく分からないこと言ってるし!
地球外生命体?!この人地球外生命体なのか?!



「されるんですよ、現に初伊にやられました。覚えておくといいですよ。その表情は効果テキメンです。」

「お黙り先輩!」







「初伊で遊ぶのは楽しいですけど……そろそろ答え合わせ、しましょうか。灰音。」


そう言って先輩が先輩の背後の灰音に声を掛けたのは暫く経った後のこと。

先輩に良いように遊ばれたその後も先輩に完全に馬鹿にされていた。



「知ってます?このお菓子の原材料にもあるさくらんぼって、桜から取れるんですよ。」

「そんな訳ないでしょう。」

「新種なんですよ。知らないんですか?昨日ニュースでもやってましたよ。」

「…………本当に?」

「嘘です。」

「でしょうね!」



ええ、豊かな表情筋を駆使して見事に騙してくれましたよね。

私だって有り得ないと思ったよ?!

けど、知らないのが有り得ないって顔をするからさぁ……!

この数十分で先輩に対する信頼度がガタ落ちである。




先輩に声を掛けられた灰音はピクリと肩を揺らした。

暫くずっと、目を合わせてくれていなかったけれど、ようやく合ったその目はどこを向いているのやら。



「ごめん初伊……言い訳がまし
のは分かってるんだけどあの時の俺はどうにかしてた……。天の暴走を止めるのが俺の仕事なのに!」




……何が、私の身に起きているんだろうか。

思いつめた顔でそう言う灰音。
物凄い、嫌な予感がする。



そして、薄々気がついていた。

ゴーッとなる大きなエンジン音。
そしてこのシートベルト。

これは、うん。飛行機の類ではないかって。



「答えて灰音。……此処は何処?」




私は何処に運ばれているんだ?




「今はロシア上空。……あの……これ……ロンドン行きなんだよね。」



予想を遥かに超える衝撃の答え。

気が遠くなったのも無理はないだろう。




「ロンドン…………?!」



陰飛羽のレディに相応しくない叫び声だけれども、叫ばずにはいられなかった。