向こう側に。





ピンポーンッ.....。



愛海が電話を切ってから、30分位経った頃,

ちょっと高めの、インターフォンの音が来客を知らせる。


ドアを開けると思った通り、愛海が居た。


「咲、昨日ぶりだね。」

「そう、だね。取り敢えず、家入って。
部屋で話そうよ。」


"お邪魔します"と、愛海が言うとお母さんがリビングから出てくる。


「いらっしゃい、愛海ちゃん。
ゆっくりして行ってね?」


きっと、母なりの配慮なんだろう…。

"後で飲み物持って行くわね?"


いつも通りの微笑み方で、不安を増やさないように、そう考えているのだろうか。


「うん、叔母さんありがとう。」


なんだか3人共、暗い顔を誤魔化す様に話していた。

それぞれが悠莉の事を知っているのを分かっている筈のに、わざと知らない振りをする。

でも今の私達には、そこで話す様な余裕もなくて 変な遠慮をしてるのだろう。


階段を、1段また1段と上り部屋に向かう。

その間、愛海とは何も話さなかった。