〜春樹side〜
俺は普段、必要以上に人と接したりはしないタイプだ。
だが、あいつの時だけは、菜結の時だけは違った。
変な胸騒ぎがしたんだ。
俺は止めるべきだ、って。
ま、菜結も行くところはなかったようだし、止めて正解だったな。
嬉しいことがあるとすぐ表情に出る菜結が考えていることは、手に取るようにわかった。
だから忠告をしようと思ったんだが…まさか断られるとは。
なかなか芯のあるやつだと感心していたのもつかの間、
料理中によそ見をして手を切りやがった。
たいしたことじゃなかったしとりあえずよかったが…
俺にとってはちっとも良くなかった。
菜結が礼を言ったときのあの笑顔。
俺はあの笑顔を見たとき初めて、誰かを可愛いと思う感情を知った。
不意をつかれた俺はついそっぽを向いてしまったし、調子が狂ってほんとに困る。
それと同時に俺は思った。
『菜結が傷つく顔は見たくない。やはり他のやつについて強引にでも話せばよかったのかもしれない』と。