「健斗」 静かな海のような、感情のない声が僕を呼び、右肩に重みを感じた。 愛しい僕の最愛、楓(かえで)は僕を見透かす。 こんな僕のどうしようもないわがままにいつもつきあってくれる。 「なんでかな、綺麗なモノなのに」 苦しいのは、自業自得。 僕が捨てた世界で、生きづらいのは当然だった。 女神にでもなるつもりか、僕の左肩の重みは言った。 「綺麗なことばかりじゃないわよ。うじうじしない!」 市松(いちまつ)は、整った眉を顰めて僕に言う。