何故、美沙が父親の命日に墓参りに行かないのか。


これは、明白だ。


美沙の母である千早さんと、妹の瑠奈ちゃんに会わないためだ。


もし鉢合わせなんかしたら、……。


最悪な展開が待っていることが容易に予想できる。


保健室に着くと、近くにあるソファーに座った。


御幸奏斗という男は、デスクの椅子に座る。


「美沙に関すること。教えろ」


「礼儀がなってねぇなクソガキ。いつものキラキラ王子様キャラはどこに行ったんだ」


「は?んなもん、お前に使っても意味ないだろ」


あぁ確かに。彼はそう言いながら、引き出しからお菓子を取り出した。


「食うか?」


「要らない」


彼は飴を口に頬った。


室内に、甘ったるい苺の香りが広がる。


「なぁ、橋本。倉條って鋭そうに見えて鈍いよな」


「そうだな」


どれだけ俺が遠回しの告白をしても彼女は絶対気付かない。


槻倉志貴がどれだけ変わっても、彼女は自分のおかげだとは気付かない。


朝霧晴がどれだけ好きと言っても、彼女にはその好きは届かない。


「だから、ストレートに伝えた方がいいと俺は思うぜ?」


ストレート?


「そんなんアイツが困るだろうがアホか」


「歳上にアホっつーな。知ってっか?橋本。倉條はお前が気にかけてくれる理由は何だと思ってるか知ってるか?」


「…………………」


「……お前が優しいから、だってよ」


ガリッと彼の口から飴が砕ける音が聞こえた。