「又四郎。退屈だろう?良いもの見せてあげるよ。」
沖田が又四郎の部屋を訪ねて来るなり言ってきた。
「ん?いいものとはなんだ沖田?」
又四郎が何気無く言う目の前に、スマホで撮影した美少女3人の水着姿が広がった。
「ぬっ!!沖田!なんだそれは!?」
慌てて起き上がる又四郎。
「あたたたたっ・・・。」
「ふふふ。無理するなよ又四郎。ひとまず、落ち着きなさい。
今ちゃんと見せてあげるから。」
沖田はもう一度写真を見せた。
そこには、遙、カナ、委員長の織田高校を代表する美少女3人の、水着でピースする姿が写っていた。
「こ、この破廉恥男め!!そこに直れ!ぶった切ってくれる!!」
顔を真っ赤にして怒る又四郎。
「お?良いのかな?もう見せてあげないぜ?」
沖田は又四郎からスマホを取り上げる。
「あっ!!お、おのれ卑怯な!渡さぬか!お前のような破廉恥が見て良い姿ではない!」
「因に、又四郎は誰が良かった?」
沖田はスマホの画面をタッチしながら、又四郎を見ずに言う。
「!?だ、誰とは!?」
「3人の水着姿の美少女で、誰が一番好みか聞いているんだよ?」
「そそそそんな、誰が良いなどと言えるわけが無かろう!お主、からかっているのか!」
沖田は言う。
「別にからかっては居ないよ。興味が在るんだ。
因みに俺は、遙ちゃんだな・・・。」
沈黙が部屋を包む。
「・・・。そ、そうか・・・。」
又四郎は戸惑いながらも返事をした。
「あれ〜?答えに詰まった所をみると、やっぱり遙ちゃんが好みかい?」
「かっ!そ、そういう訳ではない!確かに遙殿はなんと言うか、その、色白で大きくて・・・。な、何を言わせる!家族だぞわしらは!」
「ふ〜ん。家族ね・・・。まぁ、いいか。
実は又四郎。君が入院している間に、5人で海に行ってきたのさ。」
沖田は又四郎に話す。
「あの事件の後、何故かみんな仲良くなってね。海水浴にでも行こうって事で。」
「ちょ、ちょっと待て沖田!遙殿は海に行くなど一言も言っておらんかったぞ!」
慌て沖田の話を遮る。
「あ、又四郎。君は怪我人だから。
みんなで話し合って内緒でって事でさ。」
沖田は人差し指を唇に重ねる。
「バカ者!行けなかった本人を目の前にして、内緒もヘッタクレもあるか!」
又四郎はむきになって怒る。
「あっ、ゴメン、ゴメン。でもお詫びに、写真を見せて上げただろう。」
明らかに又四郎をからかって楽しんでいる沖田。
「くぬぬっ!いけすかんこの破廉恥め!」
又四郎はふてくされて横になり、そっぽを向く。
「まあ、来年は一緒に行こうよ。早く良くなってさ。」
「貴様に言われんでもすぐに良くなって、その写真を奪ってぶっ壊してやる。」
そっぽを向いたまま又四郎は沖田に言う。
「はは。怖い怖い。じゃ、又四郎。また来るよ。」
「ええい!もう来んで良い!!」
沖田は病室から出て行こうとする。
ふと、又四郎が話し出した。
「夢を見たんだ・・・。わしが生きておった時の。
そこで、好いていた女が遙殿にそっくりだったのを思い出してな・・・。」
沖田は病室のドアに手を掛けて、黙って聞いていた。
「そやつとは死に別れたのだが、襲われて眠っておった時に、走馬灯ではっきりと思い出したんだ。」
又四郎は沖田に語りながら思った。
今までなら、女の一人や二人に心を動かされる事は無かった。
むしろ、そんな感情はハルの死を以て忘却した。
明日をも知れない命に、無駄な重荷は背負わない。
剣客として生きていく上で、平穏など無用の物だった。
しかし、どうした事だ。
この胸の苦しさは。
怪我のせいではない。
沖田の言った一言が、胸をえぐるように突き刺さる。
又四郎は思い出していた。
ハルに気持ちを告げられなかった悔しさと、喪失した虚しさを。
「くくくっ。済まぬな。詰まらぬ事を言った。
しかし、何とした事だ・・・。無用と棄てたわしの心が再び息を吹き返すとは・・・。」
又四郎はそれきり沖田には何も語らなくなった。
やがて戸惑いの中で、目蓋が重くなるのを感じた・・・。
まどろむ意識の中、ふと沖田の声が聞こえるような気がした。
「つまりは、やはり君も、遙ちゃんが好きだと言う事なんだよ。」
「片想いしている俺と、いつかは決着を着けなきゃ成らないね・・・。」
又四郎は沖田の声を夢か現か解らないまま聞き、やがて眠りに就いていた。



