笑った。

忠明と遙は、本当に久しぶりに心から笑った。




父親と母親を最近事故で失い、四十九日が過ぎた今日、又四郎が現れた。

遙は実の妹ではない。


忠明の尊敬していた上司がある事件に巻き込まれ、報復され、その上司と奥さんは殺害されていた。

相談に乗っていた小野に、予め安全の為に生まれたばかりの我が子を預けておいた。

その為、遙は助かった。
その訃報の後、小野の両親と忠明は、遙を育て養子にし、妹として忠明は可愛がった。


だが忠明の両親は、先日、居眠り運転のトラックと正面衝突し、帰らぬ人となっていた。


二人は失意に打ちひしがれていた。

そこに今回の記憶喪失中二暴力高校生だ。

がっかり次いでにヤケクソで、家で預かる事を承知した忠明だった。


腕の腫れは引いたので、包帯は外した。
頭はでかいタンコブが出来たが、後二日もすると治るだろう。



そんな事を思いながら、涙が出るほど笑った。


「そんなに笑わなくとも、良いではないか!」

又四郎が呟く。


「ゴメン、ゴメン!でも、コーラを飲んだ事がないなんて・・・。しかもあんなゲップ初めてだし・・・。う、うふふふふっ。」

遙も泣きながら笑って、謝る。



「やはり、攻め苦だったか・・・。精神から崩壊させようとは・・・。地獄とは恐るべき場所だ・・・。」


又四郎は息を飲む。


「ふう、笑った笑った。じゃあご飯を食べてよ。今よそるから。」


茶碗には、真っ白な白米が光って、湯気を上げている。


「こ、これは・・・。何と立派な銀しゃりだ!生まれて初めて見た!」

又四郎は目を輝かせる。
「えっへん!家の自慢の炊飯器だからね。」
遙は胸を張る。

「又四郎、食ってみろよ。腹がふくれたら色々、思い出すかも知れないからな。」


又四郎は箸を持ち、一心不乱に白米をかきこむ。

あっと言う間にお茶碗が空っぽになる。


「おかずも食べてね。」

焼きジャケと豆腐冷奴だ。


「う!旨い!こんな飯と焼き魚、船場亭でも食った事が無いぞ!!」


船場亭とは江戸は本所深川でも有名な料亭である。



「どーれ、遙。俺はビール。さてさて、野球でも見るかな。」


テレビをつける忠明。
画面はナイターを写している。


それを見た又四郎は、一気に飯やら何やらを吐き出す。



「ぶふーーーっ!!」


「きゃっ!!」
遙の顔面に掛かる。


「ど、どうした遙!!」
慌てる忠明。



「人をそんな小さく箱に積める刑罰も地獄にはあるのか!!」


又四郎は、驚愕した。