又四郎の同級生で同じクラスの平賀新一が、又四郎のお見舞いにやって来たのは、意識不明になって二月経った頃だった。


「あ、あの小野さん・・・。少し又四郎君と二人だけにして貰っても、良いかな・・・。」



やけに思い詰めた表情の平賀を見た遙は、そっと席を立ち、その場所から離れる。



遙が居なくなった事を確かめて、平賀は窓越しに、又四郎に語り始めた。



「又四郎君・・・。実はね、僕は両親が居ないんだ・・・。

妹と二人、小さい頃に捨てられて施設で育ったんだ。

楽しかったよ。施設は。

奨学金を貰って、沢山勉強してこの高校に通えるようになったんだけど、やっぱりレベルが高い学校だから、なかなか勉強に着いていけなくて。


みんなと一緒に遊べるお金も無いからその内どんどん孤立してしまって、空気にされてしまったんだ・・・。


そうしたら、君が編入してきて、あの事件があっただろう?


あれから僕は僕なりに頑張れるようになったんだ。前向きに、卑屈に成らずに・・・。


本当に君のお陰だよ。

ありがとうね。



それでね、僕は妹と施設を出て、二人暮らしをしているんだけれど、昨日妹が誰かに拐われてしまったんだよ・・・。



家に帰ってきたら、玄関に手紙が置いてあって、−妹の命が惜しければ言うことを聞け−って書いてあったんだ。


この手紙を見たときの僕の気持ち、解るかい?

もはや、絶望だったんだよ・・・。


もしも人に言ったり、警察に言った場合はすぐに妹を殺す。
だってさ・・・。


理不尽だよね。不条理だよね。
二人頑張って生きてきただけなのに・・・。なんでこんな事になるのだろうね・・・。


それで、手紙にはこう書いてあって、今夜高柳君の人工呼吸器の管を外せって書いてあったんだ・・・。


何で妹の誘拐と、高柳君が関係あるの?


おかしいよね・・・。狂っているよ・・・。


なぜ、そこまでするのか僕には解らない・・・。

でもね、考えられないんだよ・・・。

妹が心配で心配で・・・。

だからゴメン!僕はバカだ。
感謝している君の呼吸器の管を外させてくれ!!
僕にはこうする事しか考えられないんだよ!

本当にゴメン、許してくれ!!」



集中治療室のドアを開けて平賀は中に入る。



乱暴に管をむしり取り、機械の電源を抜く。



そのまま部屋を後に、廊下に飛び出して、叫びながら逃げていく。



呆然とその姿を見送る遙。


はっと我に返って、慌てて又四郎の病室に入った。



管が抜かれ、機械が停止している。


ナースコールを押し、又四郎にしがみつく。



「駄目!駄目!又四郎!!
死んじゃ駄目だから!

又四郎!死んじゃ駄目!
お願い又四郎!目を覚まして!又四郎!!!又四郎!!!」



泣き叫びながら、又四郎にしがみつき必死で体を抱きしめる遙。



無我夢中に、叫ぶ。








「・・・・・・。」










「こ、これ・・・。」






「!?」







「そ、そんなに・・・しがみついては、い、痛いではないか・・・。」




か細く、しかし聞き覚えのある声だ。






「そ、そもそも・・・。わしらは既に、し、死んいるのだ・・・。こ、これ以上・・・。」





「ま、又四郎!!」




遙は大声で叫び、更にきつく又四郎を抱き締める。





「ぬ・・・。
ああ、いい匂い・・・。
ではない、これ、離さぬかハル・・・。

い、いや、遙殿・・・。恥ずかしいやら、照れくさいやら・・・。」






「良かった!本当に良かった!又四郎〜っ!」





涙と鼻水で顔を歪めながら笑う遙は、本当に嬉しそうだった・・・。






「せ、せっかくの美人が、だ、台無しだな・・・。」





又四郎は精一杯声を絞り出し、遙に言った。







「色々、心配を、掛けました・・・。」






看護師や医師は驚愕した。






「き、奇跡だ・・・。」


又四郎はしぶといのだった。