基本的に又四郎は服を着ない。
誤解がないように言えば、洋服を着ない。


武士のように髷は結って居ないものの、後ろ髪を束ねて頭上で縛るタイプの銀杏結いである。



現代(地獄)にやって来て、小野家に居候し、高校へも通う事になった又四郎。
忠明と遙の度重なる説得に応じて、髷を結うのはやめた。



思いの外長髪な為に、日常生活に支障をきたし、遙の薦めで、カットモデルが雑誌に載っている今時な感じの髪型にしてもらうべく、早朝(朝5時)に床屋を叩き起こし、髪を切り、学校へ通うことになった経緯がある。




普段は元々着ていた着流しを家では着ている。



顔立ちも悪くない又四郎だが、長年の戦いの中で目付きは悪くなり、聴覚が動物以上に発達し、嗅覚は犬のように鋭くなっていた。



又四郎からは、近寄りがたいオーラをガンガン出している。



せっかく決めた髪型も、手を加えないため残念な寝癖のようになっていたり、着流しも洗うたびに色褪せが激しく、綻びも酷くなった。




最近は、忠明の紺色の胴着を着ている事が多い又四郎。
丈夫で長持ちなのが気に入っている。


下着は勿論白いフンドシである。


フンドシも毎日自分で洗い風呂場に干している。

一度忠明がタオルと間違って顔を拭いてしまった時があった。

顔を拭いてしまった忠明も、顔を拭かれた又四郎も、互いに猛烈に怒り、殴りあいに成った事もある。



それ以降又四郎は侍の魂であるフンドシで顔を拭かれないようにベランダに干している。


ある時、布地が長いフンドシが隣の部屋にパタパタとはためき、幽霊騒動に発展した。
この時は、遙が隣人に事情を話して、騒動は収まった。


以来、又四郎は履きなれたフンドシを止め、ボクサーパンツに変更した。

ボクサーパンツの由縁が拳闘だと聞いて、これに決めた。


因みに元々真冬でも、又四郎は足袋を履かない。
したがって、靴下は履かない。



遙の誕生日プレゼントをカナと買いに行くにあたり、剣術馬鹿でぼくねんじんの又四郎でもいささか気を使う。



この場合の気遣いは、デート的な意味合いではなく、女子が何者かに襲われたり、地獄の鬼がいつ襲ってくるか解らないと言う意味合いだ。



仕方がない。



その時は、本気を出すか。と、又四郎は思った。


なるべく動きやすい格好がよい。



忠明の剣道着の袖を歯で引きちぎる。


これは涼しいし、動きやすい。

袴をたくしあげ、縛り直す。

頭にタオルを鉢巻き代わりに付け、襷を体に巻く。



「良かろう。」



鏡を見て、ご満悦な又四郎。


「後は二本差しがあれば、荒木又右衛門の如く仇討ちにでも行く心持ちに成れるんだがな。」



完全にアニメキャラクターのコスプレに成っている又四郎。


端から見たら中2全開だが、コスプレイヤーだと言われれば、まあ、最近の傾向から受け入れては貰えるかも知れない。



又四郎は手紙を書き、リビングのテーブルに置く。


−些か所用が在るため、カナ殿と出掛けます。晩飯時には戻ります。−
と、したためた。




時刻は朝6時。


待ち合わせ四時間前である。


家を出た又四郎は、朝の空気を胸一杯に吸い込み、ぷれぜんとと言うものを買いに行く。


感謝の気持ちを物で表す。
いつの時代(地獄)でも、変わらないのだなと、又四郎は思った。



気を使う事など皆無の又四郎は、若返ったが気持ちは成長しているのだろう。



駅に向かい、歩く又四郎。


早朝に異様な人間が闊歩する様は、映画のようだった。