「又四郎。学校へ通う気はあるか?」


「無い。所で学校とは何だ。」


「ええっ!又四郎行こうよ学校!」


「学校の意味も解らないで断るな!!」


「遙殿、忠明殿。わしは諸国を周り、更なる武芸の道を極める。」


「だ・か・らな、又四郎。今はもう武芸者なんか居ないの。何処に行っても侍は消滅しているんだよ。」


「いいや、そんな事は無い筈だ。考えてもみろ、地獄を武者修行するのはきっと楽しいぞ。わしより先に死んでしまった侍、剣豪、武将の類いは必ず地獄に居る筈だ。」


「ねぇ又四郎。そんな事より一緒に学校行こうよ!」



三人は病院の一室で話していた。


通り魔事件の事情聴取が済み、遙は一時入院して傷の治療に当たる事になった。


通り魔事件は、ご存知の通り、又四郎の大立ち回りの末犯人を逮捕する事が出来た。

又四郎は警察から大変感謝されて、その警察から国家権力による特別な計らいで、身分を約束する提案が出された。


そもそも、新聞発表や記者会見などで、「お手柄、住所不定の未成年。記憶喪失だけどなんと侍!!」
などと言う見出は、絶対に発表できない事情が在ったため、急遽警察は、身元引き受け人の小野忠明に打診をした。

それに伴い又四郎を、小野忠明の家族にする特別養子縁組が決まった。


それについては小野忠明に異論はない。
むしろ遙を救ってくれた又四郎に対して、恩に報いる事が出来ると、心から喜んだ。


遙にその事を話すと、笑顔で了承してくれた。


遙の怪我が治れば、新しい家族3人の生活が始まる。

幸い暴漢の振り回した刀で足に傷を負った遙だったが、歩けないほどではなく、5針を縫う怪我で一週間も経たない内に退院出来るだろう。



ひとまず、又四郎の高校編入問題は、病室で話していても仕方がないので、遙が退院するのを待ち、どうしたら良いかを考える事にした。
忠明と又四郎は病院から家に帰る。





「あの通り魔な、現場の近所に住む中年でな。
8年前から薬物に手を出して、あの日は完全にキレてたらしく、親父の集めてた刀を引っ張り出して、7人を殺しやがった。
女ばかりを狙ってな。

あれじゃ、殺された家族や、親族の怒りもとてもじゃないが収まらないだろう。
こう言っては何だけど、又四郎があの犯人を再起不能にしてくれたのには感謝してるんだよ。」



「忠明殿。わしは目上目下問わず、道場において手加減はしない。だが、いざ真剣勝負になる時は、自分より強い相手にしか戦いを挑まない。
まして女子供に白刃を向けるなど、ゲスの極みだ。
生きる価値すらないと思っている。」



忠明は頷いた。


「ああ。解っている。俺も同じ思いだ。」




「なあ、又四郎。お前の言う37歳で、江戸時代から死んでここへ来たと言うのはまぁ、百歩譲って解った。」

「だが、ここに来て生きていく以上、いろんなものが必要だ。
お前にも判るように言うなら、閻魔裁きで地獄で生きていく許可が出たんだ。大人しく幕に着け。」


忠明は又四郎を諭すように言う。



「・・・。地獄の裁きが出たなら、我はそれに従うのみだ。」


忠明はその言葉を聞いて更に続ける。


「んで、俺がお前の監督だ。俺が言うことは閻魔様の言う事と一緒だ。
つまり、ここでは俺の言うことを聞く事。」


「断る!!」


「ばか野郎!ダメなの!言うことを聞かないとダメ!ダメなの!!」


「・・・。ふぅ・・・。仕方ない奴だ・・・。ここの流儀も解らないからな・・・。百歩譲って少しは聞いてやる。」


「す、少し!!ったく、まあ、仕方ないか・・・。」



互いに合わせて、二百歩譲りあう。



「よし、又四郎。今日から俺達は家族だ。家族は何があっても一緒だ。
喜びも悲しみも何もかもな!」



「家族か・・・。懐かしい響きだな。死して新たに家族が出来るとはな。
まぁ、何でも良い。わしはわしで、それ以外の何者でもない。」



「ふぅ・・・。ホント、わかってんのかこいつ・・・。」



「よし、明日から高校へ行け。話はついてるから。まあ、スポーツ特待生だけどな。何と編入試験免除だぞ!」



「断る!!」



「断る、じゃねぇっ!!」


二人はこんなやり取りをしながら家路を急ぐ。