連日、遙は剣道同好会の部員の勧誘を行ったが、反応はほぼ無かった。



学校が発表した措置の後だけに、若干偏見めいた眼差しが剣道部に向けられていた事は否めない。


「もう・・・。ダメかな・・・。」



諦めムードになった遙。

二学期が始まって、10日が過ぎようとしていた。





平賀は毎日又四郎の苛烈な練習に弱音を吐く事もなく、耐え続けていた。


基礎練習を行い、後はひたすら又四郎と打ち込み稽古である。



又四郎は手加減無くうち据えた。



「ほら、平賀!どうした!そんな事ではいつまで経っても強くはなれんぞ!」



剣道初心者にとって、この稽古は抜群に上達させていく。



忘れているかも知れないが、この高柳又四郎とは、江戸時代末期、中西道場の師範をつとめ、千葉周作や大石進など、本物の剣客を相手に戦った男である。


千葉周作曰く、


高柳又四郎こそ、最強の剣客とまで言わしめた男である。



なんの因果か、又四郎はタイムトラベルと言う時空のイタズラによって、現代に現れたと言う事を改めて記しておきたい。



しかし、平賀の腕がメキメキ上達している事を試す相手が居なかった。



沖田はたまに剣道場に顔を出すが、何故か二人が稽古中には着替えすらせず、見学していた。



遙は1人、素振りを行っていた。



又四郎は、ひたすら平賀を鍛えると決めていた為、二人をガン無視して没頭していた。



10日間で、平賀は暴行事件の被害者の如く怪我だらけになっていたが、休まず稽古を続けた。




そんなある日の放課後。


剣道部に二人の女子が現れた。




1人は今年の春、上級生から暴行を受けて入院していた剣道部員の
伊東乙女(いとうおとめ)と、

又四郎と平賀のクラス委員長
瀬戸未来(せとみらい)だった。




「あれ?瀬戸さん!」

平賀が気付いて振り向いた瞬間、強烈な面が平賀の脳天に直撃した。




平賀は気を失い倒れた。


「こら!試合中よそ見をする・・・。こ、こりゃいかん!遙殿!水を!至急水を持って来てくれ!!」



遙は慌ててヤカンの水を持ってきて、平賀に掛ける。



ブルルと震えて正気に戻る平賀。



「あれ・・・?なんで水浸しなの?」


平賀はキョトンとして、道場を見渡す。



視界に瀬戸と、伊東が入る。



「ああっ!そうだ!ねえ、小野さん!又四郎君!お客さんだよ、お客さん!!」



遙と、又四郎は平賀が見ている方を振り向く。



沖田が、瀬戸と伊東と話しているのが目に入った。




「お〜い、3人とも〜。こちらのお2人さんが入部したいんだって。」



沖田が実に軽薄に、3人に声を掛けてきた。



遙と又四郎は目を見合わせて、道場の入り口に走り出した。



「あたたたっ!」



又四郎は平賀の頭を踏んづけて向かっていった。