睨むように見据えられた眼には怒りにも似た色が滲んでいる。

その眼に、見つめられた私の身体は完全に固まっていた。

殴られる!?

私がそう思うくらい、北山先輩は不穏な雰囲気を纏っていた。

だけど、それは私の完全なる勘違いだった。

両肩を掴まれていたのと、北山先輩の豹変ぶりに驚いた私の身体は自分の意思が届かないように動かない。

そんな私に近付いてくるのは北山先輩の顔。

それはまるでスローモーションのようだった。

徐々に距離を詰めてくる北山先輩の顔に、漸く私の身体が反応を示したのは吐息が掛かるほどの距離になってからだった。



「……止めて!!」

咄嗟に腕を伸ばして北山先輩との距離を保とうとした。

今まで抵抗せず固まっていた私に油断していたのか、力任せに押した身体はいとも簡単に私から離れた。

グラリと身体を揺らした北山先輩。

僅かに見えた隙を逃さないように、私は無意識のうちに右腕を振り上げていた。

頭の奥底で声が聞えたような気がした。

『ダメ!!』

その声に気付かないフリをして、私は振り上げた手を力一杯振り下ろしていた。

――パチン……。

乾いた音が響き、辺りは静寂に包まれた。

呆気に取られた様に私を見つめる北山先輩の眼。

たいして動いてもいないのに私は肩で呼吸をしていた。

生まれて初めて他人を力任せに叩いた感覚がいつまでも右手から消えなかった。

ドアや窓の向こうからは生徒達の声や足音が聞こえてくる。