「知らなかった?」

「はい。購買部があるのは知ってましたけど」

「だよね。1年生はわざわざこんな所に来ないし」

「ですね」

「でも、ここって結構穴場なんだよ」

「穴場?」

「特に今の時期は、気持ちがいい」

先輩の言葉を待ちかねていたかのように爽やかな風が頬を撫でた。

5月の日差しはとても暖かくて、時折吹き抜ける風が心地いい。

「本当に気持ちいいですね」

私の言葉に

「だろ?」

先輩は嬉しそうに口角を緩く持ち上げると

「で? 何にする?」

少し腰を曲げて私の顔を覗き込んでくる。

急激に近くなった距離感に

「……!?」

私は、咄嗟に1歩後退した。

だけど、先輩は私の反応を気にする様子もなく

寧ろ楽しそうに自販機を指差す。

先輩の言動を見ていると、動揺した自分が無性に恥ずかしく感じてしまう。

できるだけ、なにも意識していませんって雰囲気を装いつつ

私はブレザーのポケットに手を突っ込んだ。

「……あっ……」

そして、気付いた。