それから目の前にいる乃愛に視線を向けると

乃愛も驚いた表情で私と先輩を交互に見つめていた。

……こんな時、私はなんて言って席を立てばいいんだろう?

人付き合い経験の乏しい私の頭では適当な言葉が見つからなかった。



「三浦さんをちょっとだけ借りてもいい?」

必死に言葉を探していた私の代わりに乃愛に声を掛けたのは先輩だった。

疑問形だけど、私を連れて行くのは決定しているような口調でもあった。

……っていうか、入学したての新入生と3年生の先輩。

何気に縦社会が存在する学校という場所。

いろんな意味で乃愛が先輩に『ダメです』なんて言える筈がなく

「……はぁ……」

乃愛は鼻から抜けるような声を出した。

決して、乃愛は『はい』と言った訳でも『どうぞ』と言った訳でもない。

だけど、先輩は乃愛が快く快諾したように見えたらしく

「悪いな。ありがとう」

にっこりと微笑んで見せた。

その途端、乃愛の頬が赤く染まったのを私は見逃さなかった。