私は今、薄暗い湿った資料室にいる。


そう。再びここに戻ってきた。

もう既に、椅子の上に立って、首に輪を
通している。


今は、心臓も全くうるさくない。
まるで、死んでいるみたいだ。
これからなのに、な。

さあ、後はこの椅子から降りるだけ。


心残りは全く無い。
静くんのお陰で、良い思い出ができたからである。


飛び降りようとしたが、止まってしまう。

いや、怖いからじゃ無いよ。


向かいの校舎には、
同じ様に首を吊ろうとしている、静くんの姿があった。


私達は少しの間、顔を見合わせた。

すると、静くんが両手を出して、
指を一本ずつ、折り曲げていく。


なんだろうと、思ったが、すぐに
カウントダウンだと気付いた。


今の私は全く怖くなかった。
だって、既に私の生きた証は残ったし、
原田に軽めの仕返しも出来たから。

それに、死ぬときも一人じゃないから。
私と一緒に死んでくれるのは、
静くん。


静くんのまだ、折り曲がってない指はあと一本だった。


最後に私は微笑んでみた。


そして、あの消すのがもったいないと言われた黒板の模様を思い出して、
椅子から飛び降りた。


向こう側と同時に。


死ぬときも一緒だね。

私の『吊りとも』の静くん。


吊りともはずっと一緒にね。


私は、皆が私達を思い出すのを想像した。
その光景は、とても素敵だった。
私も静くんを思った。


──目を閉じて、思った。