「本当にナンパじゃないから…。ランニングの途中に休憩しようと思ってただけで…」
あまりにも必死に弁解する彼に対して、ふっと笑いが込み上げた。
「え?何かおかしいこと言った?」
「ナンパじゃない割にはよく話しますね」
彼は瞳を丸くして、一気に顔を真っ赤に染める。それをタオルで隠すように汗を拭った。
「うわっ…なんか俺ダサ…」
「ちょうど落ち込んでいたので、少し気が楽になりました」
「そうだったんだ。大丈夫?」
どうしてだろう。初対面の人と話すことが苦手な私なのに、彼に話したくなってしまうのは。
それほどショックが大きいのかもしれない。
「もう、ここでは生きていけないって思いました。田舎へ帰るかもしれない…」
言葉にしたら、突っかかっていたものが取れたような感覚がした。
と、共にやっぱり苦しさが胸を締め付ける。
「どうして?」
私は彼に、全てを話した。お母さんの事も、ハルの事も…。ずっと、誰かに聞いて欲しかったんだと気付いた。
相談できる相手もいなかったから。
例え答えがなくても、聞いてもらえるだけで心にかかる負担の重さが軽くなった気がした。
「…そっかあ。辛いね…何て言ったらいいか…」
「いいんです。聞いてもらえただけで大分違います。ありがとうございました…」
そう言って私は立ち上がる。
「待って!また、会えるかな」
「え?」
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