「あ~、かわいい~」

 四月のある日曜日、駅前のファンシーショップでぬいぐるみを手に取り、桜はとろけるような笑みで七海を振り返った。

 高三の春、拓人たちはそろそろ進路を固め、それぞれが目標に向け、頑張る年を迎えていた。

 拓人と桜は共に教員を目指す事を決めつつあったが、準平と七海はまだ悩んでいた。

「桜って、いつまでもお子ちゃまだねぇ」

 ぬいぐるみを抱いて嬉しそうに微笑んでいる桜を見て七海が苦笑いする。

「いいじゃない、かわいいもの好きなんだから」

 桜はぬいぐるみを元の場所に戻すと、今度はアクセサリーを見始めた。

「いいなぁ、これ」

 クロスペンダントを見て、ふっと、桜が小さく溜め息をつく。するとそれを見ていた七海が不思議そうに桜を見た。

「どうしたの?」

 クロスペンダントを手に取り、桜がじっとそれを見つめている。その様子に七海は何かを思い出したように一瞬、瞳を見開いた。

「ね、もしかして……誕生日、風間くんから何も貰わなかったの?」

「えっ? あ、うん」

 桜は四月三日生まれで、クラスで一番早く誕生日を迎える。七海の問いに桜は少し寂しそうに微笑み、それを見た七海は呆れたように口を開けた。

「風間くんってどういう神経してんの? 確かホワイトデーもお返しなかったんだよね?」

「クリスマスと去年の誕生日は貰ったよ」

 七海の問いに答えながら、桜は気持ちが沈んでゆくのを覚えていた。クリスマスは自分がプレゼント交換をしようと提案したからだとは言えない。言ったら、七海は更に怒るだろう。

「そういう問題じゃないっ!」

 予想通り、七海は更に呆れたと言う顔で、両腕を腰に置き、嘆息した。

「あたしなら絶対アウト! 誕生日にプレゼントもくれない彼氏なんてありえないっ!」

「七海……」

「第一、相変わらず愛情表現ないんでしょう?」

 信じられないと言う顔で七海が側にあるピコピコハンマーを手に取る。彼女はそれを軽く振り上げると掌を出し、ポンと叩いてみせた。

「桜って本当、物好きだわ。風間くんのどこがいいわけ?」

「……全部」