“好き”と言う直接的な言葉ではなかったが、桜は目に涙を一杯に浮かべ、拓人の精一杯の告白にこくりとうなずいた。拓人の性格を考えると、ここまで言うのも大変だったはずと、瞬間的に悟ったからだった。

「……うん」

 ありがとう、拓ちゃん。

 再び泣き出した桜の隣で拓人もうつむく。間違いなく、困惑しているのだろう。

「な……泣くなよ」

 拓人が言ったが、すぐには泣き止めそうになかった。拓人の困惑した顔を横目でちらちら確認していると、缶を持っていない方の拓人の腕が、自分の方に伸びてくるのが見えた。
肩を抱かれ、ゆっくり引き寄せられる。夕焼けがいつまでも、綺麗だった。桜の花びらを微かに揺らすように、静かにまた、時が動き出そうとしていた。