ただ、何かの間違いであって欲しいとナゴミは思った。
「いや、そうとは限らないよ。ただの友達かファンかもしれないし」
「そっか」
四葉はいつの間にか、長いツインテールをポニーテールに結び直して、伊達眼鏡をかけていた。
初等部生徒会長で警視総監の孫娘で、学園内では顔が知られているから、変装しているのだろう。
数歩前を歩く二人は、一度も後ろを振り向かず、談笑を続けていた。
十数分後、十字路に差し掛かったところで、茜がまた手を振った。今度はバイバイの振り方だ。
ここで帰り道が別れるらしい。
(何にもなかったな……普通のお友達みたい)
ナゴミは近くのポストの裏に寄りかかってほっと息をついたが、なぜだか隣の四葉は眉間にシワを寄せてる。
(?)
茜が右に曲がって横断歩道を渡ろうとした時。
振っていて上げたままの手をぐいと引っ張り、篠崎は茜の広い額に唇を押し付けた。
「……へっ、やっぱりか」
吐き捨てるように小声で言った四葉の言葉も耳に通らないくらい、ナゴミは硬直してしまった。

