鼎秀峰は、凛達に追い付くべく琵琶湖を泳いだ。

柊冬の骸が残る島の残影を背後に感じて、あの恐るべきムカデが、まだこの湖に生息するかも知れないと一刻も早く凛達に伝えなければ成らない。

未だ、出会っていない未知なる生き物が居るかも知れない。


もしくは、既に遭遇し、打撃を受けているかも知れない。


気が気でないまま鼎は泳ぎ続けた。




凛達は琵琶湖の中程まで泳いでいた。

もう少し泳いだ先に、九頭竜を封印した祠の島がある。

最廉が、二股竜と戦った場所もこの島だった。


今は朽ちている祠の鳥居はその時の戦いの爪痕が残っている。



島に辿り着いた凛達は、後続の到着を待つ間、炊飯を行う事にした。


比較的大きな島は、植物が密生している。

祠の洞窟は鍾乳洞になっていて、地底湖から琵琶湖に繋がる。

そこに九頭竜が封印されている。



凛は自ら調査するべくこの祠に入る事にした。




「師団長殿、炊飯が終わるまでに必ずお戻り下さい。」


「ああ、解っている。」


凛は1人九頭竜の祠へ入る。



荒れた祠の洞窟は、ヒンヤリとした空気が張り詰められていた。

青い苔が足場を悪くする。

簡易にあつらえた松明に灯りを灯し、洞窟の階段を降る。

火が射し込むとガサガサと何かが影へ移動する気配を感じる。

生臭い臭いが鼻をつく。
羽音が洞窟の上空から無数に聞こえる。



何者かの気配を感じた凛は、息を潜め、気配のする方へ松明をあてる。




子犬程の大きさのコウモリが無数に飛んでいた。


松明の火を当てると、驚いたように飛び立ち、けたたましい羽音と鳴き声が、洞窟内に響き渡る。


「な、なんだ、この大きなコウモリは・・・。」


凛は生唾を飲む。



気を付けて先に進む。



洞窟内は階層になっている。

意図的と言うより、遙に昔、何らかの手が加わって形成された鍾乳洞を加工して作られた洞窟のようだった。


階段から下る階段まで、ゴツゴツした岩場が地面には在るものの、空間は堀抜いたように縦と横に広い。


琵琶湖に昔、我々のような人間が入り込んで、何らかの営みが在ったのかも知れない。


今の所、コウモリ以外は生物の存在は見当たらない。


凛はひとまず、引き返す事にした。


炊飯を終えて、再びこの洞窟に潜入する事にした。


洞窟から出た凛は、島に異変が起きていることに気が付いた。


鼎秀峰が島まで泳ぎ着いたようだったが、何やら様子がおかしい。


島の炊事場がやけに騒がしいのだった。