オフィスの華には毒がある

***


「はぁあ」


「……どうかしました?」


エレベーターの中で思わず出たため息を環に拾われる。


「……なんか出てた?」


「出てましたよ、何やら深いため息が。折角定時で帰れてルンルンなのに」


深いため息ではあるけれど、1日の仕事の疲れからくるものではなくて。


……結局あれから斉木くんに連絡はしていなくて。
でも、忘れていたわけではなく、寧ろずっと意識していたから。
その、疲労感と。

なんとか斉木くんと鉢合わせずに半日を過ごせたことへの、安堵感と。

これからどうしようという、不安感と。


……色んな感情が入り交じったため息。


側で聞いていて深いと言うのなら、きっと深かったんだろうな。


これから毎日こんな思いをするんだろうか。


迂闊に主任にしてしまったキスといい、なんだかわたし、厄払いにでも行こうかな。