「すみません、いつもいつも……。本当にありがとうございます。気を付けて来てくださいね」
『うん。焦らなくていいから、ゆっくり準備していいよっていうのも伝えてあげて』
優しいお兄さんのような口調から察するに、学には遥が寝坊したことなどとっくにお見通しなようだ。
寝坊して遅刻するのはこれが初めてでもないのに、それでも決して怒らない、海より広くて深い学の心には感謝しかない。
本当に、姉ちゃんにはもったいないくらいのいい人だ……。
「学さんが迎えに来てくれるってさ。だから、ゆっくり支度しろって」
通話を終えた携帯をポケットにしまいながら、聞こえた足音に振り返れば、鏡と化粧ポーチを手に、せかせかとリビングに入ってくる遥の姿が目に入った。
「ほんとに?良かった!今日はお気に入りの靴を履いていくつもりだったんだけど、このままだと走らなくちゃいけないから、ヒールがある靴じゃダメだなって諦めていたところだったんだ。ありがとう、まなぶくん!」
嬉しそうにソファーとテーブルの間に腰を下ろした遥は、さっきまでバタバタしていたのが嘘のように、のんびりとテーブルの上にスタンド鏡を立ててポーチを開ける。



