「那智、リップ取って」
「はいよ」
「ありがと」
中身がぐちゃぐちゃのカバンから、
リップを取るのは那智の仕事。
自分で探すの、すっごく大変。
でも、那智は直ぐ見つけてくれる。
なんなら、カバンの中身を
キレイにしてくれる。
「レイナ、ゴミぐらい自分で捨てれば?」
那智はこんな口答え私にはしない。
呆れ口調で言ったのは、親友の茉莉。
「好きでやってるんだよ」
爽やかに答える那智は、私から見たら
キュンキュンしちゃうぐらい可愛く
見える。
「あんたが甘やかすからレイナが
つけ上がるんだよ?男ならガツンと
言いな!」
おー、こわ。
つり上がった眉に、那智は一瞬、
捨てられた仔犬のような表情をした。
私が那智と付き合い出した時、
周りがすごく驚いた。
なんで、こんなナヨナヨしたひ弱な男と
付き合うんだ?って。
皆は知らない。那智は空手黒帯だって
こと。
色んな大会で優勝してるのを
私は何度も見てきた。
私の容姿と釣り合わないって言うけど、
皆は知らない。
一度も染めたことのない黒髪から
覗く、綺麗に澄んだ瞳を。
すごく優しいし、甘やかしてくれる。
165センチで、低身長だけど
そんなの全然気にならない。